ブランディング強化やリブランディングのプロジェクトは、事業の成長や競合との差別化を目的として行われることが多いです。
しかし、このようなプロジェクトは、単にロゴや社名を変更するだけではなく、事業全体を見直し、変化させる効力を持っています。そのため、プロジェクトを成功に導くためには、多くのステイクホルダーと意思決定者の関与が不可欠であり、綿密な計画と実行が求められます。
今回は、リブランディング/ブランディング強化プロジェクトの初期段階で注意すべきポイントについて、筆者の経験を交えて詳しく解説していきます。プロジェクトに関わる事業者の方々やベンダーの方々にとって、本記事が成功への一助となれば幸いです。
ブランディングプロジェクトの初期に考えるべきこと
リブランディング/ブランディング強化プロジェクトを始める際、事業者の意図はさまざまです。たとえば、次のものなどが主な理由として挙げられます。
- 新たな市場や顧客の開拓
- 商品やサービスの変化に合わせたイメージ刷新
- 競合との差別化
- 売上向上
しかし、これらの意図は複雑に絡み合っていることが多く、一つの明確な目的に絞ることは難しいでしょう。このような状況下で、プロジェクトの初期段階に事業者側とベンダー側が協力して行うべきことは、次の2つを明確にすることです。
- ブランドが進むべき方向性
- ブランドとしてのNG事項
プロジェクト初期にこの2つの要素を考えることで、プロジェクトの方向性を見失わず、かつ失敗のリスクを最小限に抑えることができます。
ブランドが進むべき方向性
「ブランドが進むべき方向性」を決めることは、プロジェクトの「北極星」を定めることに似ています。複数の目的を一つの大きな方向性にまとめ、その中で優先度を付けていくことが重要です。
この方向性は、プロジェクトの成功イメージを関係者全員で共有するために欠かせません。
ブランドとしてのNG事項
一方、「ブランドとしてのNG事項」を明確にすることは、プロジェクトの失敗確率を下げるために必要不可欠です。
ブランドは、これまでの歴史や取り組みの積み重ねによって形成された無形資産です。過去を無視した安易なブランディング強化/リブランディングは、せっかく築き上げた資産を損なうリスクがあります。
ブランドが進むべき方向性の決め方
「ブランドが進むべき方向性」を決める際、最も重要なことは、複数の目的を一つの大きな方向性としてまとめることです。この方向性は、プロジェクトの「北極星」となり、関係者全員の目指すべき道しるべとなります。具体的には、次のようなステップを踏むことが効果的です。
- プロジェクトコンセプトの設定
- コンセプトに紐づく複数の目的と優先度の設定
- 目的に紐づくKPIの設定
これらのステップを踏まえて「ブランドが進むべき方向性」を決定し、関係者全員で共有することが重要です。
ただし、プロジェクトの進行に伴い、目的や優先度が変更される可能性があることを念頭に置く必要があります。変更が必要な場合は、どの目的の優先度を高め、どの目的を低くするのか関係者全員で議論し、意思決定することが求められます。
また、定期的なミーティングの冒頭で、方向性を記した資料を読み合わせることで、チームとしての認識を揃えることができます。これは小さな工夫ですが、プロジェクトを円滑に進める上で非常に有効な手段です。
1. プロジェクトコンセプトの設定
- プロジェクトが成功するためには、どのような状態になればよいのかを明確にします。
- 例:「新たな顧客層の獲得により、売上を20%向上させる」
2. コンセプトに紐づく複数の目的と優先度の設定
- プロジェクトコンセプトを達成するために必要な目的を洗い出します。
- 目的ごとに優先度を設定し、プロジェクトの方向性を明確にします。
- 例:「1. ブランドイメージの刷新(優先度高)、2. 商品ラインナップの拡充(優先度中)、3. 広告宣伝の強化(優先度低)」
3. 目的に紐づくKPIの設定
- 各目的の達成度を測るための具体的な指標(KPI)を設定します。
- KPIを設定することで、プロジェクトの進捗状況を客観的に評価できます。
- 例:「ブランドイメージの刷新 → ブランド認知度の向上(30%以上)」
ブランドとしてのNG事項を明確にする方法
ブランディング強化・リブランディングプロジェクトを進める上で、「ブランドとしてのNG事項」を明確にすることは、失敗のリスクを最小限に抑えるために欠かせません。
前述のとおり、ブランドは事業そのものを指すことが多く、ブランディング強化・リブランディングは事業全体を変化させる効力を持っています。場合によっては、ドラスティックな変化が必要なこともあるでしょう。そのような際、社外の新しい意見や視点を取り入れるために、ベンダー(ブランディングコンサルタントや広告代理店など)と協力することも有効です。
しかし、ブランドは今までの歴史や取り組みの積み重ねによって形成された無形資産です。過去を無視したブランディング強化・リブランディングは、せっかく築き上げた資産を損なう危険性があります。最悪の場合、既存の顧客が離れ、新規の顧客も獲得できないという事態に陥ることもあり得ます。
そのため、プロジェクトの初期段階で、今までその組織や顧客が大切にしてきた価値観や想いを言語化し、それらと大きく乖離するブランディング強化・リブランディングを未然に防ぐための「ブランドとしてのNG事項」を設定することが重要です。
「ブランドとしてのNG事項」を設定する際は、次のような点に留意しましょう。
- ブランドの歴史や価値観の整理
- 顧客との関係性の分析
- NG事項の設定
これらの項目を明確にすることで、プロジェクトの方向性が大きく外れることを防ぎ、失敗のリスクを最小限に抑えることができます。
ただし、NG事項の設定は、プロジェクトの柔軟性を損なう可能性もあります。そのため、NG事項の設定は必要最小限にとどめ、プロジェクトの進行に応じて適宜見直すことが大切です。
1. ブランドの歴史や価値観の整理
- ブランドがこれまで大切にしてきた価値観や想いを洗い出します。
- 関係者へのインタビューや過去の資料の分析などを通じて、ブランドの本質を見極めます。
2. 顧客との関係性の分析
- ブランドと顧客との関係性を分析し、顧客がブランドに求める価値を明確にします。
- 顧客アンケートやインタビューなどを活用し、顧客の声を直接収集することが効果的です。
3. NG事項の設定
- ブランドの歴史や価値観、顧客との関係性を踏まえ、ブランディング強化/リブランディングにおけるNG事項を設定します。
- 例:「創業以来大切にしてきた〇〇の価値観を損なう施策は避ける」、「顧客が求める△△を無視した方向性は取らない」
プロジェクトを成功に導くためのポイント
ブランディング強化/リブランディングプロジェクトを成功に導くためには、「ブランドが進むべき方向性」と「ブランドとしてのNG事項」を明確にするだけでなく、プロジェクトの運営面でもさまざまな工夫が必要です。ここでは、5つのポイントについて解説します。
- 目的の可変性を前提としたチーム運営
- 定期的な認識合わせ
- 社外の意見や視点の取り入れ
- 関係者とのコミュニケーション
- 成果の評価と改善
これらの点に留意しながらプロジェクトを運営することで、ブランディング強化/リブランディングの成功確率を高めることができるでしょう。
1. 目的の可変性を前提としたチーム運営
プロジェクトの進行に伴い、目的や優先度が変更される可能性を常に念頭に置きます。変更が必要な場合は、関係者全員で議論し、意思決定を行います。柔軟なチーム運営によって、プロジェクトの方向性を適切に調整することができます。
2. 定期的な認識合わせ
プロジェクトの方向性や進捗状況について、関係者全員で定期的に認識を合わせます。ミーティングの冒頭で方向性を記した資料を読み合わせるなど、小さな工夫を積み重ねることが大切です。認識のズレを早期に発見し、修正することで、プロジェクトを円滑に進めることができます。
3. 社外の意見や視点の取り入れ
社外のベンダーや専門家の意見や視点を積極的に取り入れることで、新たな気づきや発想を得ることができます。ただし、過去の資産を無視した安易な変革は避け、ブランドの本質を損なわないよう注意が必要です。社内外の知見を適切にバランスさせることが、プロジェクトの成功につながります。
4. 関係者とのコミュニケーション
プロジェクトの進捗状況や課題について、関係者と密にコミュニケーションを取ります。事業者側とベンダー側の双方が、オープンかつ誠実なコミュニケーションを心がけることが重要です。課題の早期発見と解決につなげることで、プロジェクトの成功確率を高めることができます。
5. 成果の評価と改善
プロジェクトの成果を定期的に評価し、改善点を洗い出します。KPIの達成度や顧客の反応などを多角的に分析し、必要に応じて方向性や施策を調整します。PDCAサイクルを回すことで、プロジェクトの継続的な改善につなげることができます。
ブランド価値向上のための継続的な取り組み
ブランディング強化/リブランディングプロジェクトを成功裏に終えたからといって、ブランド価値向上への取り組みが終わるわけではありません。ブランドは生き物のようなものであり、常に変化し続ける市場や顧客のニーズに合わせて、進化させていく必要があります。
ブランド価値を継続的に向上させるためには、次のような取り組みが重要です。
- ブランドパフォーマンスの定期的な評価
- 顧客との対話の継続
- 革新的な商品・サービスの開発
- ブランドストーリーテリングの強化
- 社内ブランディングの推進
これらの取り組みを継続的に行うことで、ブランドは時代の変化に適応し、進化し続けることができます。ブランド価値向上への取り組みに終わりはありません。常に高い目標を掲げ、挑戦し続けることが求められるのです。
1. ブランドパフォーマンスの定期的な評価
ブランドの認知度や好感度、ロイヤルティなど、ブランドパフォーマンスを定期的に評価します。評価結果を分析し、改善点を明確にすることで、ブランド戦略の最適化につなげます。
2. 顧客との対話の継続
顧客の声に耳を傾け、ニーズや期待を的確に把握することが重要です。顧客満足度調査やソーシャルメディアのモニタリングなどを通じて、顧客との対話を継続的に行います。
3. 革新的な商品・サービスの開発
変化する市場や顧客のニーズに対応するため、革新的な商品・サービスの開発に取り組みます。ブランドの価値観を体現し、差別化を図ることができる商品・サービスを生み出すことが重要です。
4. ブランドストーリーテリングの強化
ブランドの価値観や個性を、ストーリーを通じて効果的に伝えることが求められます。広告宣伝活動やコンテンツマーケティングなどを通じて、ブランドストーリーを継続的に発信します。
5. 社内ブランディングの推進
従業員一人ひとりがブランドアンバサダーとしての意識を持ち、ブランドの価値観を体現することが重要です。社内教育やコミュニケーションの強化を通じて、社内ブランディングを推進します。
ブランディング強化・リブランディングプロジェクトを検討している皆様へ
最後に、ブランディング強化・リブランディングプロジェクトを検討している皆様へのメッセージです。
ブランディング強化・リブランディングは、事業の成長に直結する重要な取り組みですが、同時に、大きな変化を伴う挑戦でもあります。プロジェクトを進める中では、さまざまな困難や障壁に直面するかもしれません。
しかし、そのような困難や障壁を乗り越え、ブランディング強化・リブランディングを成功裏に進めることができれば、事業の飛躍的な成長と、ブランド価値の向上という大きな成果が得られるはずです。
ブランディング強化・リブランディングは、単なるロゴや見た目の変更ではありません。事業の根幹に関わる取り組みであり、その効果は事業の隅々にまで及びます。だからこそ、プロジェクトを進める際には、長期的な視点を持ち、腰を据えて取り組むことが重要なのです。
本記事で解説した「ブランドが進むべき方向性」と「ブランドとしてのNG事項」を明確にすることは、プロジェクトを成功に導くための第一歩です。また、プロジェクトを成功に導くためのチーム運営や関係者とのコミュニケーションの在り方も、本記事で詳しく解説しました。
これらの知見を活かし、事業者の皆様とベンダーの皆様が協力しながら、ブランディング強化/リブランディングプロジェクトを進めていくことを心より願っております。
プロジェクトの道のりは平坦ではないかもしれません。しかし、その先には、事業の飛躍的な成長と、ブランド価値の向上という大きな成果が待っているはずです。その成果を目指して、一緒に頑張っていきましょう。
ブランディング強化・リブランディングプロジェクトの成功を心よりお祈りしております。